海運は物流において大きな役割を果たす事業です。しかし、船上でのストレスや危険は陸以上に大きなもの。これを軽減させるのはAIやレーダー、映像(画像)解析、AR・VRなどのテクノロジーです。今、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることにより、船の世界が変貌を遂げようとしています。本記事では、そんな海のデジタルトランスフォーメーションを解説します。
船も無人化、テクノロジーで事故を回避!安全へのデジタルトランスフォーメーション
安全性と効率化に貢献し、環境問題の対策にも役立つ海のDXとは
「物流」という言葉から思い浮かべるものといえば、トラックでやって来る宅配便の業者さんかもしれません。しかし、実は日本における物流の4割は船、とりわけ国内の港から港へ荷物を運ぶ内航船が担っています。国土交通省によると、現在約5000隻の内航船に、2万人以上の船員が勤務しているそう。ところが、そんな現在の海運業界では、船員不足が大きな問題となっています。
船上で生活するというスタイルが「特殊」だということは想像に難くありませんが、実際に船員の3割が1年以内に辞めてしまうほど定着率が低いと言われています。内航船は多くの場合が3カ月乗船して1カ月休みというサイクルなので、船員は長期にわたって陸と切り離された暮らしを送ります。しかも、鋼鉄製の船内では自室でスマホが使えなかったり、労働時間が長いのでオーバーワークになりがちだったり。
さらに、近年はコロナ禍によって船員の交代が困難となり、欠航や港の閉鎖などから乗船期間はますます長くなりました。人員不足は勤務している船員の疲れやストレスを増大させ、ヒューマンエラーにもつながりかねません。加えて船上での仕事には危険がつきもの。災害や汚染などのリスクはもちろんのこと、外航船ともなれば紛争や海賊に遭遇する可能性もあります。
こうした海事の課題を解決する方法として注目されているのが、DX(デジタルトランスフォーメーション)です。では、DXは船上の労働環境をどのように改善して作業の安全性を高め、環境問題対策にも役立っているのでしょうか。
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ARやVRに無人航行?テクノロジーがより安全な航行に貢献 船上のDX
船上のDXで活用されている技術としては、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)があります。ある大手の海運業者は、ARを使ったナビゲーションシステムを開発しました。前方を捉えたカメラ映像に自船・他船のルートなどが重ねて表示されるので、船員は必要な情報を直感的に把握しながら操船できます。VRを活用した他船やブイの状況などを俯瞰表示するシステムでは、高度や角度を自由に変えながら、より正確に状況を確認することができます。
他にも、周囲を航行する船の種類を認識したり、離着岸や係留作業を安全かつ効率的に行ったりするAIの研究も進んでいます。船内外に設置されたネットカメラを利用することにより、現場に行かなくてもリアルタイムな映像をスマホで確認できる仕組みも構築されています。これまで船の上は経験と勘がモノをいう世界でした。しかし、船員の高齢化が確実に進みつつある今、こうした新しいシステムがベテランの船員に代わって的確な判断を行う場面も増えていくでしょう。
また、無人航行を目指した開発も行われています。2022年に行われた実証実験では、大型カーフェリーが北海道の苫小牧港から茨城県の大洗港まで、約750km・18時間にわたって無人航行を行いました。危険海域はロボットや無人航行にお任せできる日も近いかもしれませんね。低軌道衛星による通信や船内LANシステムなど、船上・船内で使える新通信技術も開発されつつあります。船上のDXは安全な航行に貢献し、さらに労働環境の改善にも貢献しているのです。
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モーダルシフトで地球温暖化に歯止め?海のDXは港湾・造船・物流をも効率化
海事で進むDXは船上だけにとどまりません。港湾作業や物流、造船などの分野でも、デジタル化によって、より安全かつ効率的に作業が行われるようになりました。例えば、アナログの部分が多かった港湾業務や手続きも、徐々に電子化・自動化されています。これまで人手によって行われていた荷物の積み下ろしというハードな作業も、無人の搬送車やロボットを導入することが検討されています。船同士や船陸間で運航データを共有することにより、最適な速度やルートを提案して燃料費削減を目指すシステムも構築されました。
また、造船業では最適な造船工程を導き出すシステムや、3Dモデルを確認しながら作業ができるメタバースプラットフォームの利用に関する実証実験も進められています。こうした技術が完成すれば、作業員による進捗差や手直しなどはなくなっていくでしょう。
現在、政府はトラックによる貨物運送を海運や鉄道に転換する「モーダルシフト」を推進しています。海上には交通渋滞がないので、運搬できる量は内航貨物船1隻で10トントラック約160台分と同等です。トラック運転手160人を船の乗組員5人程度に減らせるだけでなく、二酸化炭素の排出量を80%も削減することができるのです。電気で運航する環境に優しいEV船も登場しました。今後、さらに海事のDXが進んで「スマートシップ」が推進されれば、船の果たす役割はますます重要になっていくかもしれません。
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