現実の世界から集めた情報などをパソコン上に再現するデジタルツイン技術と、デジタルデータを三次元化する3Dプリンティングという2つの技術によって、デジタル世界と物理的な世界が近づきつつあります。デザイナーやエンジニアはデジタルツインを使って仮想世界の中に物体を再現することが可能となり、逆に仮想世界のデータを3Dプリンターで形にすることも容易に行えるようになりました。私たちのアイデアを現実のものとして具現化できる現代。デジタルとフィジカルの融合について解説します。
アイデアを現実に 3Dプリントがつなぐ、デジタルツインと物理世界
現実を仮想に――限りなくリアルなデジタルツインを可能にしたものとは
デジタルツインというのは、現実の世界にあるモノやコトをデジタルの世界に忠実に再現したもので、限りなく本物(リアル)に近いのでツイン(双子)と呼ばれます。
例えば、地図アプリのマップも一種のデジタルツインといえるでしょう。デジタルでできた地図の中に現実の道路や建物が再現され、私たちはその地図を使って目的地までの最適なルートを探したり、道案内をしてもらったりすることができます。
現在、多くのデジタルツインはシミュレーションや保全、品質向上を目的に活用されています。製造や建築の現場でトラブルが発生した時、デジタルツインを使えば不具合の場所や原因を短時間で突き止められます。ビルや航空機を設計する時にも、お金と時間をあまりかけずに試作を繰り返せます。
アポロ計画をテーマにしたある映画のなかで、宇宙船内で起きたトラブルに対して、地球上にある宇宙組織に置かれたレプリカの宇宙船でシミュレーションを繰り返し、現場に指示を出すシーンがあります。これと同じことが今ではデジタルとリアルの間で行われているのです。
現実世界を仮想世界に構築することを可能にしたのは、リアルの世界にある、データを集めてくる多種多様なセンサーや、集めたデータを解析するAI技術、さらには高速通信を可能にした5G、デジタルツインを見るためのARやVR技術といった、さまざまなテクノロジーの進化です。
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仮想を現実に――コストも時間も短縮する3Dプリントの驚きの技術
デジタルツインがリアルをデジタルに置き換える技術なら、3Dプリンターはその逆で、デジタルをリアルに置き換える技術といえるかもしれません。
3Dプリンターは材料を1層1層積み重ねて出力することにより、3D用のCADやCGソフト、または3Dスキャナーなどで3D化されたデータを現実のモノとして形成します。デジタルデータを「印刷」するわけですから、微細なデザインも手作業で作るより簡単に製品化することができます。
石鹸やバスボム(球体状の入浴剤)を制作・販売しているある企業は、試作品の製作に3Dプリンターを導入しました。これまで新商品を作る時には、まず数日〜1週間かけて金型を製作し、試作品を作って調整し、それに合わせた新しい金型をもう一度作る…という作業を、完成まで何度も繰り返す必要がありました。しかし、3Dプリンターの導入によって数時間でアイデアを形にできるようになり、コストと時間を大幅に節約できるようになったそうです。
3Dプリント用のデータさえあれば瞬時に世界中の現場とデータを共有し、どこでも同じ品質の製品を作ることができます。プラスチック樹脂を材料にすることが多かった3Dプリンターですが、最近では金属プリントも可能になり、活用の幅が広がりました。建築物や車、さらにはロケットまで、3Dプリンターで製造できる時代が来ようとしています。
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デジタルツインと3Dプリントで融合するデジタルとフィジカル
フィジカルとデジタルの融合はどんどん進んでおり、リアルをデジタルにするデジタルツインと、デジタルをリアルにする3Dプリンターを連携させる研究も進められています。
例えばデジタルツインで人工知能によって設計され、3Dプリンターで実体化できる自動車が開発されています。こうした連携が進んでいけば、デジタルツイン上の3Dプリンターにデータを送れば、現場のリアル3Dプリンターから機器や部品が「印刷」されて出てくることが当たり前になるかもしれません。
身近なところでもフィジカルとデジタルの融合は進んでいます。すでに決済は現金よりも電子決済、という人も多いのではないでしょうか。仮想空間で家具を部屋に配置してサイズを確認できるアプリや、服の試着やヘアスタイルを試せるVR・ARサービスも登場しています。欲しい商品があれば事前に仮想空間でチェックしたり、データをダウンロードして気軽に3Dプリンターで作ったりできるようになるかもしれませんね。
デジタルツインは今のところ限定的な使用にとどまっていますが、3Dプリンターは個人の手が届くものになりつつあります。3Dツールを扱うには専門的な知識が必要ですが、スマホのカメラを3Dスキャンとして使い、撮影した画像を3D化するアプリもあります。また、画像を送れば3Dプリントしてくれる受託造形サービスも登場しました。機会があれば、フィジカル×デジタル=「フィジタル」な暮らしを体験してみてはいかがでしょうか。
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