次世代エネルギーを探る動きが世界的に活発化しています。中でも期待されているのは水素エネルギーです。次世代エネルギーをけん引すると言われているものの、まだ一般利用に至っていない水素エネルギーについて、そのメリットや製造方法、今後の見通しなど、基本をわかりやすく解説します。
グリーン水素は脱炭素社会の決定打となり得るか?活発化する次世代エネルギー
「次世代エネルギー」として期待される水素エネルギーの利点
クリーンエネルギーとして注目を集め、一般利用に向けた取り組みが推し進められている水素エネルギーには多くの利点があります。そのひとつが、水素は様々な方法で製造できるという点です。自然界には水素(H)を含む資源が豊富に存在しており、例えば水(H2O)やメタン(CH4)から取り出すこともできます。また、廃プラスチックや下水の汚泥からも製造できますし、化学工場などで副産物として発生したものを利用することも可能です。
日本は現在、エネルギー資源のほとんどを海外に依存しています。もし水素エネルギーを国内で安定的に製造することができれば、エネルギー自給率を上げる大きなチャンスとなります。日本は水素エネルギーの利用に関して世界トップクラスの技術を持っているので、産業競争力の強化にも大きく貢献するでしょう。地方の資源を使って水素を製造できれば、地方の産業振興にもつながります。
水素の利点はほかにもあります。それは、貯蔵や輸送がしやすいという点。気体のままタンクに入れて運ぶこともでき、冷やせば液体として、また金属に吸着させれば個体として輸送・貯蔵ができます。さらに災害などによる停電の際には非常用電源としても利用できます。
また、燃焼させた時、つまり水素を利用する時に二酸化炭素が発生しないという点は水素が持つ最大の利点です。これは従来の化石燃料と最も異なる点で、そのために水素は地球に優しい次世代エネルギーとして大きな注目を集めているのです。
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グリーン水素?ブルー水素?製造と活用方法に見る水素エネルギーの今
水素はその製造方法によって3つに分類することができます。
まずは「グレー水素」。これは石炭や天然ガスなどを燃焼させて水素を取り出す方法で作られたものです。ただ、このグレー水素は製造する際に二酸化炭素が発生してしまうというデメリットがあります。
次に「ブルー水素」。これも石炭や天然ガスなどから取り出されます。しかしグレー水素とは異なり、製造時に出る二酸化炭素を集めて埋める・再利用するなどの手段で処理し、大気中に排出しない方法で作られたものがブルー水素です。
一方、二酸化炭素をまったく排出せずに水素を製造する方法も研究されています。これが3つ目の水素、「グリーン水素」です。グレー水素やブルー水素とは異なり、材料には化石燃料ではなく水を使います。水を電気分解して水素を取り出せば、二酸化炭素は排出されません。「地球に優しい度合い」で、グレー→ブルー→グリーンと色分けされるのが面白いですね。
ただし、グリーン水素の製造も電気分解に使う電気の出所が問題です。火力発電などで作った電気ではなく、太陽光発電などの再生可能エネルギーを使用することで、やっと本当の「オールグリーン」な水素が製造できるのです。
こうして作られた水素は、ロケット燃料や車やバスなどの動力として、あるいは家庭用燃料電池としても活用されています。とはいえ、グリーン水素が世界におけるエネルギーの一部として定着するには、もうしばらく時間がかかりそうです。
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グリーントランスフォーメーションを後押し−水素エネルギーのこれから
次世代エネルギーとして最適と言えるのは、もちろん二酸化炭素を排出しないグリーン水素です。日本では2020年に「福島水素エネルギー研究フィールド」が開所し、水素エネルギー大規模製造の実証プロジェクトが始まりました。ここでは1時間に約150世帯分の電力がまかなえるグリーン水素を製造できます。また、産総研(産業技術総合研究所)では人工光合成を利用した製造方法も研究されています。
とはいえ、水素を作る技術を確立するだけでは不十分です。水素の効率的な輸送に加えて一定量を利用するための需要も求められます。輸送については圧縮水素トレーラー、マイナス253℃という液化水素の陸上輸送が可能な輸送コンテナ、大型液化水素運搬船などが開発されてきましたが、今後はさらなる大型化が進むと考えられています。
水素の活用で注目されている分野に製鉄があります。製鉄には鉄鉱石から酸素を取り除く「還元」という工程が必要ですが、これまで還元にはコークス(石炭)が使われていました。これを水素に変えることで二酸化炭素の排出量が実質ゼロの鉄、いわゆる「グリーンスチール」「グリーン鋼材」を作ることができます。現在、千葉市に実験用の高炉が作られており、2050年までにこの技術を確立する計画が立てられています。
スマートシティ(あらゆる部分がデジタル技術で最適化された都市)の実現には、化石燃料を中心とした今の社会から大きく変わらなければならないでしょう。水素を利用したグリーントランスフォーメーション(GX)を見据えた各国の取り組みに期待が高まります。
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