スマホやインターネットは、今や私たちの生活に必要不可欠なものとなっています。とはいえ、各通信会社が懸命に基地局を設置しても、ユーザーや地域の100%をカバーするのは容易なことではありません。その穴を埋められると期待されているのが、「HAPS(High Altitude Platform Station:高高度疑似衛星)」です。これは今まで電波が繋がらなかった地域でも携帯を使用可能にする画期的な技術。これにより世の中はどう変わるのでしょうか。HAPSとは何なのか。さらには、現在どこまで開発が進んでいるのか解説します。
2027年からの商用化を目標に研究開発中の「HAPS」とは?
空飛ぶ基地局「HAPS(ハップス)」とは?成層圏基地局のメリット
HAPSは、地上から約20kmの上空を飛び続けるグライダー型の無人飛行機で、無線基地局の装置を搭載して上空から通信を提供する、いわば「空飛ぶ基地局」を目指して開発されています。
私たちが暮らす地球の上空には、すでに多くの通信衛星が飛んでおり、海外からの生中継や衛星放送に役立っていますが、HAPSがそれらと大きく異なるのはその高度です。通信衛星は静止軌道タイプが地上から3万6000km、低軌道タイプでも高度2000kmを飛行していますが、HAPSが飛ぶのはわずか高度20kmの成層圏(stratosphere)で、これはジェット機が飛ぶ高度の2倍に過ぎません。この低高度のおかげでHAPSが提供する通信エリアでは、現在使われている4Gや5Gの電子機器やスマホをそのまま使うことができます。
しかも、HAPSは空に浮かんでいるため、地上の基地局よりはるかに広い範囲をカバーします。地上に設置された基地局が半径数km〜十数kmをカバーするのに対し、HAPSは半径100kmをカバーできると考えられています。つまり、単純計算ではHAPSを40機飛ばせば日本中をくまなくカバーできることになります。
さらに、成層圏は風が穏やかで空気抵抗が少ないので、年間を通じて安定した通信を提供することができますし、地上に近いとあってメンテナンスも容易です。成層圏に浮かんでいる空飛ぶ基地局には多くのメリットがあるのです。
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災害時や砂漠でも通信をキープ「HAPS(ハップス)」が埋めるエリアの穴
HAPSは様々な分野での活用が期待されています。前述のように、成層圏では地上と同じ周波数が利用できるので、HAPSを利用すれば山岳地や離島、砂漠、海上など、通常なら電波が届きにくい地域での通信も可能となります。しかも、新しい通信衛星を飛ばしたり、地上基地局をいくつも設けたりするより低コストなので、経費をかけずにエリアの穴を埋めることが可能です。
こうしたことが進めば通信未開拓地での生活は今よりずっと便利なものになるでしょう。登山をしている時や、船や鉄道に乗っている時でも、大容量のインターネットサービスを遅延なく利用できるようになるかもしれません。
山岳地や海上で遭難事故などが起きた時に、インターネットが繋がればスムーズな救援も可能となります。さらに、地震や台風などの災害でも、HAPSなら影響を受けることなく通信インフラを提供し続けることができます。
HAPSは今後増えていくドローンビジネスでも活用できると考えられています。ドローンにHAPSから電波を提供することができれば、ドローンの飛行距離や高度が伸びても安定した飛行が可能です。他にも気象観測や警備、リモートセンシングなどの分野で利用することも検討されています。
IoT(モノのインターネット)社会となった今、農業や物流、建設現場や工場、イベント会場などで使用される多くの機器がインターネットに接続されています。天候や災害の影響を受けず、安定した通信インフラを提供し続けるHAPSの存在意義は、非常に大きいと考えられています。
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実用化は2027年?「HAPS(ハップス)」開発の現状と課題
様々な分野での活用が期待されるHAPSですが、現在、どの程度まで開発が進んでいるのでしょうか。日本の大手通信会社は、翼にソーラーパネルを搭載した全長78mのHAPS開発に参加しています。2020年には20時間以上のテストフライトに成功しており、成層圏で5時間38分飛行しました。通信テストも行われ、世界で初めて成層圏とのLTE通信(Long Term Evolution=モバイル用通信規格の1つ)によるビデオ通話に成功しました。
また、ヨーロッパの宇宙航空企業が開発を進めている小型のHAPSは、2022年に64日間という長期間の飛行を達成しました。電波伝搬測定実験の結果、約140kmの距離でスマホとの通信が可能なことも確認されています。これ以外にも世界の様々な企業によってプロペラの付いた飛行機型のHAPS、飛行船型のHAPS、燃料電池を使ったHAPSなども開発が進められています。
しかしその反面、HAPSには成層圏環境での耐性や通信品質の向上など、クリアしなければならない課題もあります。マイナス70℃という成層圏で通信インフラを提供するには、コンピュータやセンサーを適度に保温しつつ、軽量化を実現しなければなりません。また、長時間にわたって成層圏を飛び続ける無人飛行機は前例がないため、新しい法律の整備や国際的なルールの作成も必要です。複数の国をまたいでその上空を飛行する場合は、関係するすべての国との連携や調整が求められるでしょう。現在のところ、HAPSの実用化は2027年と予想されています。
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成層圏で活躍!空飛ぶ基地局「HAPS(ハップス)」が魅せるIoTの未来
IoT社会において、空飛ぶ基地局は私たちの生活に不可欠なものとなるかもしれません。多くのメリットをもたらすHAPSの開発は、市場規模も約6000億円近くになると試算されています。成層圏を飛ぶHAPSが20kmの上空から全世界をカバーする通信インフラを提供し始める日が楽しみですね。
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