充電ケーブル不要のワイヤレス充電は、今やスマホだけでなくスマートウォッチ、タブレットやイヤホンなど、様々なガジェットで使われています。端子の接続部分を傷めることなく充電でき、デメリットといえば充電器とのズレによる充電ミスや充電が遅いことなどでした。ところが、そうしたデメリットを磁力で解決する新しい充電方法が普及し、ワイヤレス充電はより便利になっています。QiやMagSafeといったワイヤレス充電の規格と、そのメリット・デメリットを解説します。
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充電ケーブル不要のワイヤレス充電は、今やスマホだけでなくスマートウォッチ、タブレットやイヤホンなど、様々なガジェットで使われています。端子の接続部分を傷めることなく充電でき、デメリットといえば充電器とのズレによる充電ミスや充電が遅いことなどでした。ところが、そうしたデメリットを磁力で解決する新しい充電方法が普及し、ワイヤレス充電はより便利になっています。QiやMagSafeといったワイヤレス充電の規格と、そのメリット・デメリットを解説します。
「Qi充電」のQiは「チー」と読みます。「チー」は「気」の中国語読みで、「気功(中国語でチーグォン)」という言葉にも使われている通り、「見えない力」を意味しています。ケーブルを使わず電力(磁力)で充電するワイヤレス充電の規格として名付けられたのはそのためです。
簡単におさらいしておくと、充電器とスマホの両方にコイルが入っていて、お互いを近づけると磁界が発生し、誘導電流を蓄えるのがワイヤレス充電です。この仕組みを利用したワイヤレス充電はQiより前からありましたが、それぞれの企業が独自に開発を進めていたため、充電器とスマホの組み合わせによっては使えないことが課題になっていました。
そこで、2008年に立ち上げられた業界団体のWPCが規格を統一。Qiに対応していれば、異なるメーカーのデバイスでも非接触で充電できるようになったのです。日本では「置くだけ充電」という呼び名で知られるようになりました。
Qiによる充電なら、複数の対応デバイスを同じ充電器で非接触充電できる、充電ケーブルが不要なのでコネクタが長持ちする、コンセント回りがすっきりするなどのメリットがあります。ただ、スマホを蓄電可能な位置に置かないと充電できない、デバイスによっては充電速度が遅いなどのデメリットも残されていました。
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一方、同じワイヤレス充電でもアップル製のデバイスに対応した「MagSafe」の特徴は磁石を使っていることです。
iPhone12以降のモデルにはコイルと磁石が内蔵されており、充電器の上に置くだけで充電効率が最大化するベストポジションにピッタリ貼り付いて動きません。そのため、充電したつもりでも位置がズレていて充電できていなかった…といった充電ミスを予防できます。しかも、最大出力15Wの急速充電が可能です。
この磁石はかなり強力なので、充電以外にも様々な用途に使えます。例えば、スマホリングやカードケース、三脚、スマホスタンド、自撮り棒などのアクセサリを、マグネットでスマホに装着できます。
MagSafeに対応していればシールやクリップなしで脱着できるので、アクセサリごとにケースを取り換えたり、買い替えたりする必要がありません。スタンドにスマホを装着して料理中にレシピを見る、車載ホルダーに装着して音楽を楽しむなど、自由に使い回すことができます。
ただ、MagSafeが使えるのはマグネットが内蔵されたアップル製品のみです。そのため、充電器を含む純正のMagSafe対応製品はどうしても値が張りがち。また、充電中に位置がズレてしまうことはほとんどないとしても、ケースやストラップの素材によってはMagSafeそのものが使えなかったり充電速度が落ちたり、アクセサリが外れることもあるので確認が必要です。
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異なるメーカーのスマホでも、互換性はあるが接触位置がズレると充電できないQi。位置ズレは起こらないが、Androidには対応していないMagSafe。このような課題を解決したのが新しいQi規格の「Qi2」です。Qi2は2023年にアップルから技術提供を受けて登場しました。
Qi2とQiの最も違う点は、MagSafeと同じように磁石でスマホを吸着し、充電できることです。しかも、アップルの製品以外のスマートフォン全般に対応可能となりました。また、以前のQiはデバイスによって5〜7.5W程度の出力でしたが、Qi2は最大出力15Wを実現し、急速充電ができるようになっています。もちろん、WPCの認証を取得しているので安全性も確保されています。
そして2025年、このQi2がさらに便利になったのが「Qi2.2」です。Qi2で最大15Wだった最大出力が、Qi2.2では最大25Wへと変わり、充電スピードの速さを体感できることでしょう。さらに、充電時に問題となりがちな発熱についても、基準が見直されて安全に充電できるように改善されました。
現時点ではQi2に対応したAndroidスマホはまだ発売されたばかりですが、今後多くのAndroid機種への対応が予想されています。
どんなワイヤレス充電器を選ぶかを考えるにあたり、規格以外にもチェックしたいポイントがいくつかあります。
まず考えたいのが充電方式です。スマートフォンを立てかけて置くスタンド式や平らなパッドの上に置くパッド式、持ち運びができるコードレスのモバイル式などがありますが、位置ズレを避けやすいのはスタンド式です。スタンド式なら充電中に動画を見たり、SNSをチェックしたりすることもできます。
また、ワイヤレス充電は有線充電より充電速度が遅くなりがちです。急速充電をしたい場合は、できるだけ出力が大きいものを選びましょう。ワイヤレス充電の出力は5W・7.5W・10W・15Wの4つが多く、出力が大きくなるほど充電スピードは上がります。たとえば10Wなら3時間かかる充電が15Wなら2時間で済みます。
なお、充電器の出力がスマホに対応しているかも確認しましょう。ほとんどのスマートフォンは、入力可能な電力の最大値は「20W前後〜30W未満」ですが、念のため取扱説明書やバッテリーの設定などで対応ワット数を確認しておくと安心です。
また、スマホケースの素材やデザインによってはワイヤレス充電ができない場合があります。さらにスマホリング(フィンガーリング)が付いていると、たいていの場合ワイヤレス充電は行えません。金属製のリングなど、素材によっては発熱の危険もあるので注意が必要です。
正しく使用していれば、ワイヤレス充電器を使うことで、有線充電よりスマホのバッテリー寿命が短くなってしまうということはまずありません。ただ、ワイヤレス充電は電磁誘導を利用しているので、有線充電より熱が多く発生します。多くのワイヤレス充電器は、過度の熱が発生すると安全のために充電速度を落とすように作られてはいますが、私たちがちょっと注意するだけで充電時の発熱を大きく抑えることができます。
発熱を防ぐためにできることのひとつは、充電効率を上げるために位置をきちんと合わせて置くことです。また、熱がこもらないようスマホのケースを外して充電する、充電中の使用はできるだけ控えることも気をつけたいポイントです。
充電器の置き場所も重要です。ヒーターなど暖房器具の近く、日がよく当たる場所、布団の中など通気性の悪いところでの充電は避けます。もちろん、モバイル充電器を夏の車内など高温になる場所に放置することは非常に危険です。なお、スマホケースにクレジットカードを挟んでいると、磁場の影響を受けてカードが破損することがあるので注意しましょう。
充電がいっぱいになった後に充電し続けることもバッテリーには良くないので、1日中充電器に置いておく、寝る前に充電器に置くことも避けます。充電が100%になると充電を停止する過充電防止機能がついた充電器を使う、冷却のためファン付きの充電器を使うことも有効です。
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ワイヤレス充電は目覚ましく進歩しています。最近では、机などの家具や什器にコイルが埋め込まれ、スマホをそれらの家具の上に置くだけで充電ができるという便利な新しいワイヤレス充電器も珍しいものではなくなりました。
それどころか、道路に送電コイルを埋め込み、受電コイルを乗せたEV車に給電する実験も行われています。ある実験では、信号待ちで止まっている間に3キロ分の電気を貯めることに成功しました。充電時間の長さはEV車のネックとなっていますが、走行中に道路から給電できればもうスタンドに寄る必要はなくなります。EV車に搭載する蓄電池も小型化できるので、EV車の価格が安くなり、普及に貢献するでしょう。
さらに、接触不要のワイヤレス給電技術も開発されています。たとえば床下や天井に送電コイルを設置して磁界を発生させる、微弱な電波を出すといった方法で、部屋に入っただけで充電が始まる仕組みです。Wi-Fiなどの通信用電波と干渉せず共存できるこうした給電技術の開発によって部屋全体が「給電空間」になれば、スマホだけでなく、パソコン、エアコン、炊飯器、電子レンジ、テレビなどすべてが知らないうちにワイヤレスで給電され、部屋からは電源ケーブルが消えることになります。
開発者たちは「電気が空気のようになる世界」を提唱していますが、そんな世の中も今や夢ではないようです。
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大きな進化を遂げたQi2充電は、今後の充電システムを席巻すると予想されています。スマホに限らず身の回りにある多くのモノがインターネットにつながる社会で、手軽に給電できるワイヤレス充電はより便利になっていくことでしょう。
(2024年9月30日新規掲載:2025年9月29日更新)
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※「おくだけ充電」は株式会社NTTドコモの商標または登録商標です
※「Qi(チー)」は、Wireless Power Consortiumの登録商標です
※iPhone、MagSafeは、米国および他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。iPhoneの商標はアイホン株式会社のライセンスにもとづき使用されています。 TM and © Apple Inc. All rights reserved.
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