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スマートウォッチにも使われる次世代半導体メモリ MRAMの特徴とは

2025.2.10

パソコンが急にシャットダウンして作業中のデータが消えてしまった…。そんな経験はコンピュータを使う人なら誰でも一度はあるものですよね。現在、多くのコンピュータに搭載されているメインメモリ「DRAM(Dynamic Random Access Memory:動的ランダムアクセスメモリ)」は、電源が落ちるとデータも失われるのがデメリット。しかし、次世代半導体メモリ「MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory:磁気ランダムアクセスメモリ)」は、この課題を解決するものになると期待されています。持続可能な社会実現にも貢献する「MRAM」とは?その仕組みと活用事例を解説します。

電気ではなく磁気で記録―次世代半導体メモリ「MRAM」とは

MRAM

パソコンの中にはいくつかの記憶装置がありますが、現在、一般的なパソコンでメインとして使われているメモリは「DRAM(ディーラム)」です。ちょうど私たちが机の上に本や資料を広げて仕事をするように、コンピュータの頭脳であるCPUはDRAM上で演算処理を行います。

DRAMは電気を貯めておくコンデンサと、スイッチの働きをするトランジスタで構成されており、コンデンサに電気を流して電荷(電気)が蓄えられた状態を「1」、蓄えられていない状態を「0」と表すことでデータを記録しています。

ただ、DRAMには電源を落とすとデータが失われてしまうというデメリットがあり、トランジスタでスイッチをオフにしても少しずつ漏電が起きる揮発性によって、データをそのまま保存しておくことができなくなるという特徴があります。このため、DRAMを使って情報を記憶する際は、定期的にリフレッシュという作業を行ってデータを「思い出させ」ます。リフレッシュは数ミリ秒ごとに行われますが、この1000分の数秒単位というわずかな時間でも、処理はその分だけどうしても遅くなり、電力も大量に消費してしまいます。「SRAM」というリフレッシュ不要のメモリと使い分けられたりしているのは、こうしたウイークポイントと呼べるものをDRAMが持っているからです。

揮発性メモリのこのような課題を解決したのが、次世代半導体メモリ「MRAM(エムラム)」です。MRAMのMは磁気を意味するマグネットのM。MRAMはDRAMのように電気で情報を記録するのではなく、磁気モーメントという電子が持つ磁石のような力を利用して情報を記録します。

電源が突然落ちてもセーフ!? MRAMのメリット

MRAM

電気を流したコイルが磁石になるように、電子はスピン、つまり自転すると磁力が発生します。MRAMではこの特徴を利用して、磁界に対する電子の向きが同方向なら「0」、逆方向なら「1」として表し、データの記録を行う記憶装置です。

この時に使用されるのは1ナノメートルという薄さの絶縁体です。ちなみに1ナノメートルは1メートルの10億分の1、髪の毛の太さの約10万分の1という極小サイズです。MRAMはスピンエレクトロニクスや先進ナノテクノロジーをフル活用した究極の磁気メモリなのです。

MRAMが持つ特徴のひとつは、電気と違って磁気を利用しているため電源を切っても情報が失われない不揮発性であるということです。もし、突然デバイスの電源が落ちたとしても、MRAMならデータが消えることはありません。また、電子がスピンする方向を変えることでデータを読み書きするので、かなりの高速処理が可能で耐久性にも優れています。

さらに、磁気を使用するMRAMは消費電力を抑えることができるのも大きなメリット。最新の研究ではMRAMが従来に比べて電力効率を10倍以上に高め、起動時間も10分の1以下に短縮できることが確認されました。これにより、二酸化炭素の排出量削減、地球環境への負荷軽減が期待できます。加えてMRAMは放射線や温度変化に強いため、過酷な環境下でも動作が安定している点も注目されています。


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スマートウォッチや衛星にも。MRAMの活用と普及への課題

MRAMのこうしたメリットを生かし、様々な分野への導入が進んでいます。まず、電源が落ちてもデータが消えないことは、機器の信頼性や安全性を高めます。トラブルがあってもデータの安全性が守られることは、各種工場の産業用機器を安定して作動させるための重要なポイントになります。それが医療機器や車載機器なら、尊い人命を守ることにも繋がります。

また、過酷な環境下でも作動するMRAMの耐久性は宇宙空間での使用にぴったり。そのため、MRAMは衛星通信や宇宙探査機器、航空機などにも導入されています。さらに、省電力で安定して動き続けるMRAMは、多くの端末がネットワークに接続するIoT分野、特にスマートウォッチやウェラブルデバイスなど、ヘルスケア産業でも役に立っています。もちろん、AIや量子コンピュータなどのIT最先端分野でも大量のデータ処理を低電力で行えるMRAMは注目されています。

MRAMが持つ最大の課題はコストです。DRAMは部品も少なく製造費も抑えられるので多くのパソコンに使用されていますが、MRAMの製造コストはDRAMの100倍ともいわれています。そのため、MRAMを搭載したデバイスは、かなりの高価格にならざるを得ません。この製造コストを下げることが、今後の普及をより広めるカギです。

最初のMRAM製品が開発されたのは2006年。その製造技術・プロセスは進化を続けており、それに伴ってMRAMの性能も向上しています。コストの低下が実現すればMRAMがメインメモリとして活躍する日が来るのもそう遠くはないでしょう。

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不揮発性、省電力でMRAMに高まる期待 持続可能な社会の実現へ

不揮発性、省電力という大きな特徴を持つMRAMは、今後も様々な分野での活用が進むと期待されています。中でも地球環境に対する負荷を減らして持続可能な社会の実現に貢献するメモリであるという点は今の社会にとって非常に重要です。今後の生産技術向上・コスト削減には大いに期待が高まっています。

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【執筆】ユピスタ編集部
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