テラヘルツ波は、6Gなどの超高速通信や高精度センシングへの利用が期待されています。まだあまりなじみがありませんが、どのような特性があり、将来実用化されたとき私たちの生活はどのように変わるのでしょうか。持続可能な通信インフラの構築にも寄与するテラヘルツ波の特性と活用の可能性について解説します。
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テラヘルツ波は、6Gなどの超高速通信や高精度センシングへの利用が期待されています。まだあまりなじみがありませんが、どのような特性があり、将来実用化されたとき私たちの生活はどのように変わるのでしょうか。持続可能な通信インフラの構築にも寄与するテラヘルツ波の特性と活用の可能性について解説します。
ラジオやスマホで使用する短波や中波、ヒーターやリモコンで使う赤外線、レントゲン検査のX線、目に見える可視光線は、すべて電気と磁気が作り出す「電磁波」という波動で、周波数が3THz(テラヘルツ)以下なら「電波」、3THzを超えるなら「光」と区分されています。
本記事で紹介するテラヘルツ波は、電波と光の境目の100GHz〜10THzに位置し、電波としては非常に周波数が高い電磁波です。電波でありながら光の性質を備えているともいえ、レーザー光線のように直進性が高く、電波のようにモノを透過し、さらにエネルギーが低く被ばくリスクが少ない、水に吸収されやすいといった特性があります。
テラヘルツ波はもともと自然界に存在している電磁波です。天文分野では、宇宙から降ってくるテラヘルツ波を観測して宇宙の仕組みを解き明かそうとしてきました。現在は南極に口径10m、および30mの巨大なテラヘルツ望遠鏡を設置し、「暗黒銀河」の解明に役立てようという計画が進められています。
一方、テラヘルツ波を人工的に作り出し、通信に利用しようという試みも始まりました。周波数が高いほど1秒間に送れるデータ量が多くなり、通信速度は速くなります。そこで周波数の高いテラヘルツ帯を活用することで、6Gなどの超高速通信が可能になると期待されているのです。
テラヘルツ波の通信への利用が具体化に向けて動き出したきっかけは、2019年に開催された世界無線通信会議(WRC-19)での決定です。混信を避けるため、周波数帯は使い道や通信事業者ごとに割り当てられていますが、この会議でテラヘルツ波の広い周波数帯域のうち234.5GHz分が通信事業用に特定され、無線通信に使えることになりました。
現在、日本の通信事業者に割り当てられているのは4社合わせても3GHz分ほどなので、その約80倍もの周波数帯域が今後利用可能になるというわけです。通信が高速化・大容量化するにつれ周波数帯の不足が課題となってきている中、高い周波数を持つテラヘルツ波は「最後のフロンティア周波数」として期待されています。
2024年には大手通信事業者が、テラヘルツ波のうちやや低い周波数のサブテラヘルツ波(100GHz〜300GHz)を使って100Gbpsの超高速伝送を実現しました。いずれは1Tbps以上の超高速通信も可能になると考えられています。
総務省の「Beyond 5G推進戦略−6Gへのロードマップ−」では、6Gの目標を「通信速度は5Gの10倍、遅延は1/10、多数同時接続は10倍、電力消費は現在の1/100」と掲げています。テラヘルツ波は6Gの基盤となる技術として期待されていますが、6Gが実現すればメタバースはより身近になり、自動運転はさらに普及し、XRを活用した遠隔医療なども進み、生活は今よりも便利で快適になるでしょう。
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テラヘルツ波は高精度のセンシング機能も持ち合わせています。モノを破壊せず内部を見られるため、絵画などの美術品や文化財の鑑定および補修、病理検査や物質の成分分析などに活用できるでしょう。
すでにテラヘルツ波を使った空港でのセキュリティチェックは実用化されつつあります。安全性が高く、妊婦さんやペースメーカーを入れている人なども安心して利用できるのは大きなメリットです。荷物や手紙の中などに隠された違法薬物や爆発物、銃刀類などの発見にも威力を発揮します。
さらに、波長の短いテラヘルツ波は高性能レーダーとしても有用です。日本の研究チームは、テラヘルツ波を使って服の上から非接触で心拍を計測することに成功しました。産業ロボットやドローン、自動車の先進運転支援システム、防災などにも役立つと期待されています。また微量な水分を検知できるので、農業や気象予報などへの活用も考えられます。
テラヘルツ波はその高いエネルギー効率により、持続可能な通信インフラの構築にも貢献します。大容量の超高速通信を実現しつつもエネルギー消費量は削減され、環境への負担は軽減されるでしょう。またワイヤレス化がいっそう進み、LANケーブル、USBケーブルが不要になり、電気自動車のワイヤレス充電も可能になるかもしれません。
テラヘルツ波の実用化には、テラヘルツ波を発生させるためのコスト、法整備、利用条件などの課題が残っています。しかし実現すれば、6G技術と高機能センシング技術の融合により生活の利便性や快適性が向上するとともに、持続可能な社会に近づく大きな可能性を秘めています。
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