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資源開発も環境保護も 海の豊かさの鍵を握るのは海中通信ネットワーク?

2024.5.20

水中ドローンなどの海と関わるテクノロジーは日々進化していますが、そこで問題となるのが海中でのデータ通信。水中では陸上と同じやり方では通信ができないため、距離が長くなっても安定して使える水中通信技術の開発が急務となっています。そんな海中無線ネットワークの今と未来について考えます。

海洋資源の調査や養殖にも必要な水中通信 困難を極めるその理由とは

周囲を海に囲まれた日本にとって、海の恵みを有効に活用することは、とても重要な課題です。海中や海底を舞台に展開される産業は非常に多く、日本でも沖合養殖などの水産業を筆頭に橋や海底トンネル工事などの海洋土木、海洋資源の調査・開発などが活発に行われてきました。近年では環境に及ぼす影響を考慮して、洋上風力発電や波の力を利用した発電なども注目されています。

こうした様々な産業において、「通信」は必要不可欠の技術です。海中・海底で働く人との通信はもちろんのこと、海中でドローンやロボットを操作する際も、データ通信は必要です。各種センサーを含む設備の管理や、保守点検作業を行う上でも、水中無線通信は欠かせません。

しかし、海中と陸上の間で行う無線通信のハードルは非常に高いのです。周波数の振幅が弱まっていくことを「減衰」といいますが、水中における電波は減衰しやすく、特にスマホの通信で使われるような高周波の場合、水中ではたった数センチ先に進むこともできません。仮に完全防水のスマホを海の中に持って行ったとしても、あっという間に通信が途絶えてしまうでしょう。

海中と陸上もしくは船上をケーブルで繋いで有線通信するという方法もありますが、長いケーブルを繋ぐにはコストもかかる上に作業の範囲も限られてしまいます。そこで、いろいろな水中無線通信技術が試行錯誤を繰り返しながら開発されてきました。

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海中通信の定番!音波を使ったネットワークのメリットと課題

無線 海

水中通信技術として長年使われてきた方法が、音波(超音波)を使う水中音響通信です。1秒に地球を7周半する電波に対し、1周するのに33時間もかかる音波ですが、海中通信では大活躍します。

水中であっという間にエネルギーを失う電波と違い、音波の減衰はそれほど大きくありません。また、空気より密度の高い水の中だと、音波は陸上の4倍を超える速さで進みます。こうした性質を利用して、音波は昔からソナーや魚群探知機に活用されてきました。しかし、ソナーや魚群探知機は、「何が」「どこに」あるのか分かっても、「通信」することはできません。そこで、音響通信では特殊な音を乗せることで、情報のやり取りを行います。

音波を使った通信のメリットは、遠距離、時には数千mもの距離でも通信できるという点です。一方、デメリットとしては通信速度が遅く、送受信に時間がかかること、さらには容量が小さいという点も挙げられます。そのため、音響通信はリアルタイムで画像や動画などのデータをやり取りすることには向いていません。また、「音」を使う通信なのでマルチパスと呼ばれる海底や海面の反射によるノイズやドップラー効果、海洋生物が出すノイズなどの影響を受けやすい点も課題です。

すでに不要な反射波を排除するフィルタリング技術が開発されており、近い将来、ある程度離れた距離でも安定した通信が行える音響通信技術の実現が期待されています。

光を使った無線通信が登場! 海中で働く無人ロボットやドローンも実現?

無線 海

そして、もうひとつの水中通信技術が、光を使った無線通信です。大きな懐中電灯のような機器で強い光を発射し、それを受け取ることで通信を行います。光も水中では減衰してしまいますが、その度合いが小さい色、例えば青や緑の光を使うと無線通信ができます。ある企業は青色LEDを使って海中から陸上にLINEでライブ映像を送る実験に成功しました。

光無線通信にはレーザー光を使う方法もあります。レーザーはLEDより出力が高いのでより遠くに光を届けることができ、その広がり方や成分を調整しやすいというメリットがあります。

光無線通信は利用できる周波数幅も広く、容量の大きなデータを高速で送れます。その代わり、天候などで海水が濁っていると通信状態に影響が出ますし、太陽光の干渉を受けるのも光ならではのデメリットです。また、今のところ光無線通信の通信距離は短く、数m〜100m程度が限界です。加えて確実に光を相手に当てるための高度な技術も必要です。

当分の間、音響通信と光無線通信は併用され、ケースバイケースで活用されるでしょう。水中での高速通信が可能になれば、私たちは海中の美しい映像や神秘的な海底の様子を、自宅のテレビやスマホからライブで見ることができるようになります。今後は完全無人のドローンやロボットの遠隔操作が可能となり、より安全な海の開発や環境調査・保護の実現に期待されています。

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音波と光−最新通信ネットワークが守る海の豊かさと持続可能性

今や陸上では当たり前のように活用されているインターネット通信ですが、ひとたび海に入れば「水」という高いハードルが立ちふさがります。現在、電波の代わりに使われている音や光には、それぞれメリットとデメリットがありますが、海の中と陸上とが高速通信で繋がる日はそう遠くないでしょう。海の開発がより安全に、より効率的に行えるようになれば、その豊かさと持続可能性を守ることにも繋がります。

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【執筆】ユピスタ編集部
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